後遺障害を残す労災事故があったにもかかわらず労基署の処分を回避した事例
成長している会社は労災事故を起こしやすい
弊所の顧問先であるS製作所(製造業)は、若い社長が労務環境の積極的な改善や社内の設備を最新型に更新して生産性を上げる投資を積極的に行い、業績をグングン伸ばしていました。
ところが、S製作所は一つ大きな問題を抱えていました。それは、会社の成長速度があまりにも早すぎて、従業員の教育が追い付かないこと、それから、工場内が狭くなってしまい5Sを徹底できないことから労災事故が頻発してしまっていました。
ある日、ベトナム人の技能実習生が、禁止されていた回転したままのローラーの水滴を拭き取ろうとしたところ、ローラーに指が巻き込まれて第1関節から先がつぶれてしまう労災事故が起こってしまったのです。
当職らと社長が労災撲滅に立ち上がる!!
「もう、労災事故は絶対に起こさない。徹底的に対策を講じる!」と当職が社長に宣言し、社長も「従業員の徹底的な意識改革を行う」と当職に同調しました。
私たちは直ちに行動に移し、弊所の非常勤職員で第一種衛生管理者の有資格者(以下「弊所職員」といいます。)を伴って、現場を徹底的に検証しました。リスクのある個所をしらみつぶしにピックアップして改善策を指示し、月に1回開催していた安全衛生委員会の日程を利用して弊所職員が指導してリスクアセスメントを作成していきました。
労基署職員と機構職員による調査
それからしばらくして、労働基準監督署の職員と機構の職員が抜き打ちでS製作所を訪れて、現場の改善を指示した上で、次回訪問日時を指定して労務関係の書類の準備と現場の確認を行うと告げて帰っていきました。
社長からその連絡を受けた当職は、次回の訪問日に立ち会うことにしました。
訪問日がやってきました。このような大事故を起こしてしまったので当然きついお仕置きを覚悟して臨んだのですが、調査員の反応は予想外のものでした。
調査員たちが大絶賛!?
訪問日当日、当職が指摘したなか2階に手すりを付ける大工工事の職人が作業をしていました。
「皆さんがいらっしゃる前に、弊所の第一種衛生管理者の職員と2人で工場内を徹底的に調査して改善指導を行ったのですが、あの工事もその一環です」
当職がそう言うと
「確かにあそこに手すりがないのは危険だ。私たちは見落としていました。ずいぶん丁寧に検証されたのですね」
「その他、私たちが指摘した機械の手すりも既についている。社長の動きは早いですね」
と舌を巻かれていました。
技能実習生は大切な社員
技能実習生に関する話題となったとき、社長はベトナムに自ら赴き、技能実習生の両親に息子さんを預かるための挨拶をすること、今回の事故を起こしてしまった技能実習生の両親にもお会いして謝罪したことなどを話しました。
また、当職も技能実習生に早く戦力になってもらうためには早く日本語を覚えてもらうことだ、日本語を覚えるのに何も日本語教室に通わなくても社内には日本語を話すたくさんの同僚がいる、その同僚とのコミュニケーションを増やせば日本語は早く上達する、と考えて、「外国人従業員交流促進援助規程」を作りました。
これは、外国人と日本人の従業員が一緒にランチに行ったら飲食代を会社が支援します。一緒にドライブに行ったとき、電車で出かけたとき、ホームパーティーをしたとき、交通費や材料代などを会社が支援します。ただし、ドライブに使う車両には3000万円以上の搭乗者保険が掛けられていなければ認めません。ランチなど行くときもメンバーが一緒なら月○○回までだけど、メンバーの過半数が入れ替われば通算しません。そういった内容でした。
「こういった制度があればハラスメントだって起こりにくくなるでしょ」
そう当職が言い、実際にこの制度のおかげで「ただの外国人と思っていた日本人従業員が最近は同僚だと思うようになった」とか「技能実習生が仕事上で分からないことに出くわしたとき、気兼ねなく日本人従業員に訊いてくるようになった」などの効果が報告されていることも伝えました。
感心しきりで大絶賛して帰っていく調査員
すると、2人の調査員は「ついている労務士さんも頼りになるし、素晴らしい会社だ」
とあのような大事故を起こしたにもかかわらず、私たちは褒められて絶賛されて終わりました。
国際業務専門の有名弁護士曰く「宮島先生が奇跡を起こした!!」
このことを、国際業務を専門にしている東京の有名な弁護士に話したところ、
「さすが宮島先生だ。よく罰金刑に処せられませんでしたね。奇跡ですよ。罰金刑になっていたら技能実習計画は取り消されて技能実習生は全員職場の配置転換されていましたからその会社はとんでもない打撃を受けたはずですよ」
と言われました。
この件は、S製作所の社長と当職の間では今でも語り草になっています。

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